これからからだのこと、とくにわたしの専門である「消化管(胃、大腸、肝臓、膵臓など)」や「がん」に関するトピックを定期的にみなさんにお伝えしていきたいと思います。
今日は「胃がん」について。
みなさんにお伝えしたいメッセージを先にまとめると、
①胃がんの9割以上は「ピロリ菌感染」から発生
②ピロリ菌に感染しているかどうかは、血液検査(ピロリ菌抗体)でもわかる
③ピロリ菌は「1週間の内服治療」でほとんどが除菌できる
④ピロリ菌を除菌した後も、胃カメラは定期的に受けましょう
⑤ピロリ菌のいない人も、5年に1回は胃カメラを受けましょう
胃がんの発生はそのほとんどが、「ピロリ菌が胃に居つく」→「胃に慢性的に炎症が起きる」→「炎症が起きた粘膜からがん細胞が発生する」という経路になります。
ピロリ菌の感染経路としては、ピロリ菌は井戸水などに生息していると言われており、幼少期に井戸水などを飲んでいた方や、ピロリ菌を保菌しているご両親から赤ちゃんのときの口移しなどで感染するケースが多いとされています。最近は衛生環境も整っているので、20代〜40代の若年層ではピロリ菌の保菌者は少なく、50代以降の中高年世代では比較的多い印象です。
ピロリ菌に感染しているかどうかは、さまざまな検査方法があります。血液検査、息を吐く検査(呼気検査)、便検査、胃の粘膜から組織をとって調べるetc..。「胃カメラは抵抗があるけど、胃がんのことも心配」という方は、血液検査でピロリ菌の抗体を調べてるのも一つです。ただし、この方法(胃カメラを受ける前の血液検査)は自費になるのでご注意ください。検査結果でピロリ菌陽性(ピロリ菌がいる)の場合は、胃カメラを受けないと保険診療で除菌治療が受けれないので、ここは観念して胃カメラを受けて、除菌治療を受けましょう。
除菌治療は「2種類の抗生剤+制酸剤」を1週間内服します。8割以上の方がこれで除菌できます。抗生剤に耐性のあるピロリ菌であれば、1回の治療では除菌できず、2回目、3回目が必要になる方もいます。
ピロリ菌を除菌することで、胃におこる炎症が抑えられるので胃がんの発生リスクは大幅に低下します。しかし、除菌するまでに起こった炎症により、胃の粘膜は荒廃(萎縮)しており、その粘膜からがんが発生するリスクは、「ピロリ菌に一度も感染していない人より数倍高い」とされています。なので、ピロリ菌を除菌した後も「1〜2年に1回は胃カメラを受ける」ようにしましょう。
胃の粘膜から発生するのが、いわゆる「胃がん」です。しかし、まれに胃の粘膜のさらに下にある「筋肉の層」から発生する悪性腫瘍(がん)があります。これを「GIST(ジスト)=消化管間質腫瘍」と呼びます。胃にできる悪性腫瘍なので、広義では「胃がん」となるでしょう。これは非常に稀な腫瘍ですが、ピロリ菌とは関係なく発生するので、「ピロリ菌がいないから、胃がんは大丈夫」とはならないのは、このためです。ピロリ菌のいない人も、5年に1回は胃カメラを受けるようにしましょう。
なんだ、やっぱり胃カメラは避けて通れないのか、嫌だな。と思いますよね。
でもいまは鎮静剤を使用して寝てる間に楽に検査を受けれる時代です。アメリカや欧米では内視鏡検査はほぼ全例で鎮静剤を使用しています。我が国では国民性なのか忍耐強く、鎮静剤を使わずに検査を受けられる方が多かったようですが、わたしは少しでも検査を受けやすく工夫して、胃がんなどの大病にかからないようにする方が大切だと思っています。わたし自身も嘔吐反射(おえっとえづく)が強いので、鎮静剤を使ってもらって、胃カメラを受けています。
当院でも、①鎮静剤あり、②鎮静剤なしの鼻カメラ(細いカメラ)、③鎮静剤なしの口カメラ、と患者さんが受けやすいようにいろいろ工夫をしております。ピロリ菌の除菌治療が浸透して、胃がんの罹患率低下してきましたが、まだまだ死亡率も高い現状です。
いち内視鏡医、消化器内科医として、患者さんに優しい胃カメラを提供して、少しでも胃がんなどの大病に関係のない人生を送ってほしいと思っています。